蟹とわたしたち

「俺、しあわせなんだよね」ともちおがあるときしみじみ言った。

暗い顔でイライラすることが増えていたのでちょっと驚いた。

 

「ほんと、しあわせ。

 はてこさんとこうしてずっと一緒にいられるし

 いやな仕事はしなくていいし」

 

 

ときどき、二人でいることがあんまり幸せで、

「こんなに幸せなんだから、怖いことなんて起きないんじゃないか」

と思うことがある。

 

すると、

「たくさんの幸せな人たちのあいだにも怖いことは起きたでしょ」

とすぐに心の中で反論が来る。

 

それから、

「もちおはこんなに頭よくていろんなことに興味がある、

だからまだまだ長生きするんじゃないか」

と思うこともある。

 

すると、

任天堂の岩田社長やスティーブ・ジョブズだって頭いいのに死んじゃったじゃん」

とすかさず自分の内から反論が来る。

 

 

 

先日黒柳徹子が Instaglam に子供の頃に父と撮った写真を上げて

「父はこのあと徴兵にとられたので」

と書いていた。

 

これまで徴兵というものをそこまで生々しく思い描いたことがなかったのだけれど、

徴兵とはつまり五体満足で元気な、働き盛りの家族が

ある日突然、強制的に死地に赴かねばならなくなるということなのだと

この年齢になってふいに怖さが胸に迫った。

 

もちおがまた化学療法をはじめる。今度は使ったことのない薬だ。

徴兵に家族をとられた人はどんな気持ちだっただろうと病院の駐車場で思った。

 

 

こんなに恵まれていてしあわせなのに

みるみる日常の仕事に手がつかなくなるので

日常はそのままなのに、まだ何も起きていないのに

何を甘ったれているのかと思うのだけれど

なんだかもうボロボロ泣けてくるし、血尿は出るし

(ストレスで血尿が出るのって本当にどうなっているんだろう?)

わたしたちはへなちょこだ。

 

仕方ないよねえ。人間だからねえ。無理すると、病気になるもんねえ。

とても贅沢でしあわせで、でも怖くて心配なこともあって、気持ちの置き場に困る暮らしをしています。

関連記事

居直り料理

NO IMAGE

いってしまった人たちのこと

NO IMAGE

二日目のシスプラチン

NO IMAGE

シスプラチン六日目 化学療法中の便秘 VS コーヒーエネマ様

胃切除手術をすすめられる

ネパールカレー健康法